グループ展:あなたの庭はどんな庭

あなたの庭はどんな庭―二葉

二葉

二葉は木陰に寝ころがって夢を見ている。
風がやんで、なんの物音もしない。
よく手入れされた芝生がひんやりと気持よかった。
いつも眠りに帰るだけの、
どこかのワンルームに敷かれた
安っぽい緑のカーペットとは段違いだ。
このまま、芝生に溶けていってしまいたい。
でも、だめ。
眠っている自分を遠くで見ながら二葉は思う。

あなたの庭はどんな庭―智花

智花

こういう場所にあこがれていたのかしら、
と智花は思いがけず出会った相棒に話しかける。
にゃあ。
しずかで、ちいさな、自分だけの場所。
隠れ家? 秘密基地?
すくなくとも、弟がいつもゲーム機を持って
出かけていた「アジト」とは違う。
わたしはだれかとなにかをしたり、
いつ来るとも知れないひとを
待ったりするのはまっぴら。
もっとのんびりしているのが好き。
でしょう、相棒? にゃあ。

あなたの庭はどんな庭―松乃

松乃

つめたい、と松乃はおしりを押さえる。
この時間、スプリンクラーが動きだすと
知っていながらここにいるのは、
晴れた日の噴水が恋しいから。
公園での水遊びに歓声をあげる同級生を
うらやましそうに見ても、母は決して許してくれず、
かわりにサイダーを一本、飲ませてくれた。
あれ、甘くてつめたかったけれど、
好きじゃなかった。
部屋に戻ってベッドの母の手をにぎり、
松乃はすこし笑いながらつぶやく。

あなたの庭はどんな庭―桜子

桜子

引越の回数? ううん、おぼえていない。
聞かれるたびに桜子はそうこたえる。
実家を出てから、家に招くような知人は
ほとんどいないから、引越のたびに
ひとり暮らしの部屋が上階になっていくことに、
だれも気づいていない。
ずいぶん高いところに来たな、
空を見あげて桜子は考える。
でも夜空の星は、実家の二階ですごした
子どものころほどには、近く見えない。
飛行機雲までは、あとちょっとなのに。

あなたの庭はどんな庭―実和

実和

本を読んでいる実和をだれか呼んでいる、
そんな気がするけれど、たぶん空耳。
ここに吹く風では木の葉でさえ揺らせないし、
あの窓の向こうにはだれもいない。
実和は読みかけの本に意識をもどし、
目に入った一文をなにげなく口にする。
“初めて君に出会った時、僕はこう思ったよ、
いつかこのゲームをすることになると”。
顔をあげると、壁に切りとられた空を
雲が足早に横ぎっていく。

あなたの庭はどんな庭―彼女たち

彼女たち

久しぶりに集まった彼女たちは、
久しぶりに彼女たちのことを考えている。
会うときは、いつも一緒。
だれかふたりで出かけることは、まずなかった。
だから、彼女がひとりでいるところなんて、見たことがない。
いつも、どうしてるの?
たとえばこんな庭で、ひとりきりの時間をすごしているとしたら。
顔をあげると彼女たちは笑っていて、
その表情から彼女がいつのまにか笑っていたことに気づく。
彼女たちは口ぐちにいう。楽しいね、みんなでいると。

あなたの庭はどんな庭―彼女たちの行き先

彼女たちの行き先